蛸のぬいぐるみ

IKEAで蛸のぬいぐるみを買った。一抱えくらいの大きさで、全体的なフォルムはリアルだけど顔や足はいい具合にデフォルメされていて、かわいい。寝るとき抱きたいというよりは見守っていてほしかったので、枕の横に座らせた。布団に入って蛸の方を向いて足を握ったら、安心してすぐ眠れた。

翌朝、蛸がいるのを忘れ、もちもちの脳天に手をついて思いきり潰してしまった。掌に水っぽい感触があり、冷たいのと気持ち悪いのとでギャッと手を引いた。一瞬で目が覚めた。掌には水色の、カスタードクリーム状の何かがべったり付いていた。蛸の足も寝具も水色に汚れていた。

とりあえずぬいぐるみを洗おうと洗面所へ持っていったが、その間に汚れは消えていた。寝室に戻って見ると、シーツも布団も真っ白だった。それから毎朝欠かさず、蛸はいろんな色のべちゃべちゃを持ってきた。ペンキのように人工的な色をしていて洗っても落ちなそうなそれは、起きて30秒もしないうちに消える。疲れて変なものが見えるようになったのかと思っていたが、あまりに同じことが続くのでwebカメラを買った。これは幻覚なのか、そうでないなら蛸はどこから何を拾ってきているのか知りたかった。カメラ設置後、電気は消さずにアイマスクをつけて床についた。

起きてアイマスクを外すと、やはり寝床がスプラトゥーンみたいになっていた。記録した映像を早回ししてわかったのは、蛸は別に枕元から動いていないということだった。その代わり、眠っている私の頭が割れて頭部まるごと裏返り、ショッキングピンクの塊を掲げた触手が現れた。蛸は長い腕で塊をすくい取り、その場でがつがつ食べ始めた。あのべちゃべちゃは蛸の残飯だったのだ。私の頭は起きる直前まで裏返ったまま、用途の分からない触手をうねらせていた。