目が鳴る

横たわって目を閉じてしばらくすると、頭の底に落ちた目玉がころころ涼やかに鳴って安心する。皆起きているときがON、寝ているときがOFFと錯覚しているけど、私たちは人形なので本当は逆だ。無作為な音と映像を眺めながらかたかた寝返りをうつと、目玉二つが傾斜を転がり落ちてぶつかり合い、摩擦音が濁る。その、アスファルトの上で足を引きずるような音も安心する。入眠前の走馬灯が途絶えたあとは人間の夢を見る。夢も走馬灯と同様に脈絡がない。脈絡がないのは頭蓋内を駆け回る目玉が記憶を泡立てるからなんだよ、という声が、受け売り特有の断定口調で再生される。ああいうのを鵜呑みにできる人は、そもそも人形がやわらかい人間として振る舞っている事態がめちゃくちゃだってことを忘れていると思う。意味のわからない秩序は無秩序より歪んでいる。

アラームで起きて、まだほぐれていない目で時計を見て一気に覚醒した。完全に遅刻だ。がばっと上体を跳ね上げた勢いで芯を持った目玉が後頭部に叩きつけられ、鐘のように重く鳴った。瞼を開けているのに眼窩が空くのは初めてだった。頭蓋の残響に合わせ、目の前の景色がばちばちと切り替わっていた。はっきりと意識を持ったままそれを見るのも初めてなので、つい乱舞する映像に意味を与えようとして、すみやかに疲れた。でも目が戻らない限り人間にはならないから大丈夫。じきに慣れて、世界は美しくなっていくだろう。