夏の餅と冬の芋

在宅勤務中、のんびりした歌が音割れしながら家の前を通り、こんな時期に石焼き芋?と思ってよく聞いたらわらびもちだった。

「わらびィ〜もち、わらびィ〜もち、冷たァ〜くて、おいし〜いよ」

めっちゃいい......。こんな素朴で平和な歌が堂々と流れているなんて。この暑くて殺伐とした世界に冷たくておいしいわらびもちをありがとう。街じゅうのスピーカーからわらびもちの歌が流れていれば、いや、それは絶対うざくなるからナシとしても、外には常にゆったりした音楽がいい感じに流れているべきだと思う。会話を邪魔しない程度の音量で、どうぶつの森みたいに時間ごとに変わっていく歌詞のない音楽がほしい。ところで移動販売車でわらびもちを買ったことはないけど石焼き芋ならある。そのときも(この寒くて厳しい世界にあったかい石焼き芋をありがとう...)と感動していたため、絵本の中にいるような気持ちで「この中で一番おいしい子をください」と変な注文をし、「は?変わんないよ全部同じ芋なんだから」とぶっきらぼうに言われシュンとしたのだった。ありとあらゆるものがネットで買える現代で、移動販売とかいうファンタジーと言っても過言ではない売り方をしているくせに、そんな言い方しなくてもいいじゃん。焼かれて熟していく芋の声が聞こえるくらいの心意気で売れよ。もしかして一つ一つの芋を愛しているおじさんだったからこそ、「この中で一番」などという序列意識に基づいた発言が許せず、あんな言い方をしたんだろうか。ちなみに芋はそんなに美味しくなかった。ドンキの安いやつのが甘いじゃん、と思った。

明日はものすごく気が重い予定があって、そのことを考えると瞬時に胃が痛くなるので忘れるレベルで考えないようにして、本当に予定をすっぽかさないか心配になるくらいだ。こういう心配するときって、案外拍子抜けするくらいあっさり終わったり、心配そのものが見当違いだったりするけど。早く東京に帰りたい。