お天気カクテル

行きつけのバーのオーナーが、今日はお客さんだけに特別なカクテルを作ります、と言うのでどんな酒か聞いたら、ここ来る前って晴れてました? と質問返しされた。戸惑いながら晴れてましたよと答えると、特別なカクテルというのはお天気を変えるカクテルなんです、と言う。 「例えば、雨カクテルを飲めば酔いが覚めるまでここ一帯が雨になるみたいな......そんな感じです」。

この人もう相当酔ってるんだろうなと思いながら(オーナーは基本飲みながら酒を作っている)、じゃあとんでもない嵐のカクテル作ってくださいよとオーダーした。雷バリッバリで、もう歩けないような暴風で、街が吹き飛ぶくらいのやつ! オーナーはむっとした顔をして、嘘じゃないですからね、と知らない道具で見慣れない作業をし始めた。ギリ帰れるくらいのにしておきました、と出されたカクテルは水にしか見えず、味は苦い薬のようだった。

帰り際、オーナーはわざわざカウンターから出てきて、丈夫そうな傘を差し出した。芸が細かい。感心しながら店のドアを開けると、雨風の音が地下まで鳴り響いていた。信じられないことに、地上は本当にギリ帰れるくらいの嵐になっていた。道行く人々は誰一人傘を持たず、慌てた様子もなく、予報にない雨に濡れていた。