改札

改札の床に人が呑まれるのを初めて見た。前の若いカップルが二人もろとも呑まれて、あ私も落ちる、と思ったときには無事ホーム側に抜けていて、振り向いたらスーツの中年男性が呑みこまれていた。肝を冷やすってこういうことだなと思った。

改札で人が消えるという噂は、数年前から聞くようになった。でも現象の異常さの割には重大視されていない気がする。明日大雨らしいよ、と同じくらいの温度感で人消えるらしいよ、と話題に上る程度。SNSでは毎日のように「人呑まれた」と投稿されているが、知り合いが落ちたという目撃情報はほとんど聞かない。そして統計上、年間の行方不明者は増えも減りもしていない。

これは個人的推測に過ぎないが(いや自分で考えたんじゃなくてどこかで聞いた意見だったかも)、改札の床とはそもそも人を呑みこむもので、噂になるずっと前から人々はそこに落ちていて、単に誰も気づかなかっただけなんじゃないか。そして今後も、誰が消えたかなんて誰もわからないと思う。改札を通る人というのは例外なく急いでいるものだから。