オルゴール

遅れちゃったけど誕生日プレゼント、と友人が古い木箱をくれた。一緒に博物館へ行ったとき、小さな箱が好きって言ったのを覚えていてくれたのかな。嬉しい。家に帰ってから一人で開けてね、と念を押されて玉手箱みたいだと思った。

帰ってさっそく開けてみると、まず金属製の棒が目に入った。棒はおそらく真鍮製で、右奥の角に刺さって手前に伸びており、先端に琥珀色のガラスを巻きつけてある。作りかけのとんぼ玉ってこんなだったかもしれない。泡を帯びたガラスはうにうにと身じろいでいて、よく見ると棒がゆっくり回っていた。

回転を眺めるうちに夕方が近づいて、カーテンの隙間から西陽が差しこんだ。光線は小箱の中を洗いあげ、気泡をきらめかせながら散らばった。暖房の効いた部屋に涼しい風が吹いて、乾いた葉擦れが鳴った。空気が澄んでいい匂いがして気持ちいい。背にぬくみを感じ、振り向くと天井灯が眩しくて、目を落とした先に影模様が踊っていた。すべての感覚に覚えがあるのに、その正体が思い出せなくて焦れったかった。

ドキドキしながら友人に連絡すると(プレゼントありがとう、よくわかんないけど感動しています)すぐに返信が来た。「それは昔のオルゴールです 今回は秋晴れを巻いておきました」「ガラスがなくなったらまた別の季節を巻き直せます 自分のためにとっておくなり誰かに贈るなり、ご自由にどうぞ」。そんなの、誰かに贈りたいに決まっている。という訳で最近はずっと、好きな人たちの好きな季節について考えている。