タイドプール

夜の海で、夥しい数のタイドプールが宙に浮いているのを見た。まるでこの一帯だけ重力を失ったかのように、大小さまざまな丸い水がふるふるとしていた。タイドプールの群れが月光を咀嚼するさまは、いつかのランタンフェスティバルを連想させた。

割りたい、という欲望を我慢できず、タイドプールの横っ面に平手打ちを食らわせた。タイドプールは重力を思い出して砕け散り、地面を濡らした。手が臭くてべたべたして嫌だった。それでも攻撃を続けていたら、何個目かの殴打で掌にぬめっとした感覚を捉え、見ると足元に魚が落ちていた。タイドプールに棲んでいた魚が、岩場に叩きつけられ即死したようだった。魚は魚のくせにピチリともしなかった。その諦めっぷりを見ていたら猛烈な怒りが湧いてきた。絶対にすべてのタイドプールを叩き落とすと決意して、狂ったように両手を振り回した。魚は出てきたり出てこなかったりしたが、どれもタイドプール外では微動だにしなかった。手が痛くて冷たくて真っ赤になって、濡れた服が全身に張りついた。寒かった。

ふと光を感じて顔を上げると、朝日に照らされた岩場が銀色に輝いていた(しかし岩場と思ったのは大量に折り重なった魚の皮膚だった)。