キメラ

ブログを読み返していて、昔のバイト先のことを思い出した。大学時代、私はキメラ工場で働いていた。

作業場には無数のがらくたと、接着に必要な道具一式が揃っていた。出勤して指定されたエリアへ行くと、その日の材料となる生きものが段ボール箱に詰められ、山積みにされていた。我々バイトは箱から生きものを取り出し、がらくたを二つ三つ選んでは、思い思いの方法でくっつけていった。生きものは初め大人しくしているが、がらくたをくっつけた途端成長を始め、目を離すとどこかに行ってしまう。だから作ったキメラは、専用のテープで拘束してから納品しなくてはならなかった。

キメラがどう育つかについては、当時(たぶん今も)何もわかっていなかった。ただ、誰がどう作ってもハズレ・アタリ・オオアタリの比率は変わらない、ということだけわかっていた。優秀な職人が精魂込めて作ったキメラが検品に落ちたり、学生バイトが5分で作ったキメラが高値で売れたりすることはざらだった。安く人を雇って大量に作らせよう、となるのも当然だ。

私はほぼ最低賃金で働いていたけど、無心でキメラを作るのは楽しくて、大学卒業後もずっと続けたいくらいだった。しかし入社後一年も経たないうちに事務所に呼び出され、解雇を言い渡された。君が作るキメラ短命種ばかりなんだよね、と社員は目を合わせずに言った。「たまにいるんだよ君みたいな子。検品通ってもすぐ死ぬから、お客さんからクレーム来ちゃって」。私が作るキメラは半年ももたないという。死ぬとわかってて作るのもつらいだろうし今日が最後ってことで、と出ていこうとするのを慌てて引き留めて、せめて今日作ったキメラを一体貰えないかと頼み込んだが、だめだった。検品前の個体は持ち出し禁止なのだ。しかしあんなに悔しくて悲しかったのに、私は何のキメラを持ち帰ろうとしていたのかもう思い出せない。