孔雀の目

ベランダに干してたシャツが飛ばされた。下ろしたてなのに最悪だ。慌てて外へ出て探して、見つからないのでアパートの裏まで回って、そこで孔雀と子どもを見つけた。

孔雀は頸と両脚に釣り糸を巻きつけられ、コンクリートの破れ目から飛び出した釘に繋がれていた。地面を這う糸は孔雀の諦めを表していたが、閉じた飾り羽は誇り高く浮遊していた。ただ、いくつかの眼状紋が白っぽく汚れているのが気になった。これは何、と指すと、子どもは俯いたまま左手を開いた。掌には淡い色のビー玉が五、六個あった。「目を全部なくしちゃったんだって、だからこれで直してあげてるの」。視線を落とした先には赤いキャップの木工用ボンドが転がっていて、あの汚れは接着剤かと腑に落ちた。でもビー玉じゃ無理だ。

ちょっと待ってねと言い置いて自室に戻り、半球のシリコン型、レジン液、UVライト、裁縫セットを持ち出した。作業は簡単だ。シリコン型に針を二本刺してレジン液を注ぎ、ライトで硬化させて針を抜き、型から取り出す。それを羽根に縫いつければ完成。眼球紋は球面に反射して、猫の目のように仕上がった。私の手元ばかり見ていた子どもは顔を上げ、私もやる! と目を合わせてくれた。それから二人で協力して(子どもは半球を作る係、私は半球を縫いつける係)孔雀を直してあげた。

数時間で、およそ全ての眼状紋にレジンを被せ終えた。その後、羽根広げてくれないかなー、ずっと待ってれば開くんじゃない? と言い合いながら孔雀を観察していたが、子どもはすぐ飽きて帰っていった。