インナーカラー

同期に虹色のインナーカラーを入れている子がいる。いくら髪色自由だからって大胆が過ぎる、という旨を遠回しに伝えたら、いやこれ地毛だから! と笑い飛ばされた。そんなわけないだろ。でも仲良くなった。

一緒に帰ってお昼を食べて、と距離を縮めて毎週飲みに行くようになるまで、さほど時間はかからなかった。私は酔うと決まって、髪を触ってもいいか聞いた(いいって言われるのはわかってるんだけど、キモがられる可能性がいつまでも怖くて素面じゃ言い出せない)。いくら飲んでも酔うことのない同期は、毎度快く了承してくれた。肩甲骨を覆う長さの黒髪を持ち上げるとそこには、ない色がないんじゃないかと思うほどあらゆる色が存在していた。色は毛束ごとに入れられていたが、グラデーションになっているわけでもなく、構造色よろしくロングストレート上で波打っていた。質感はブリーチを繰り返したとは思えないほど艷やかで、染めたことのない私の髪よりよっぽど健康的だ。私は何度も聞いた「地毛だから!」をちょっと信じかけていた。

店を出ると雨が降っていて、濡れたアスファルトが街の光を吸っては吐き散らしていた。この地面が虹色になるやつ好き、とふわふわしながら言うと同期は、ほんとはそんな色存在しないんだよ、と言った。「ここは誰かが貼ってくれたのかな、でもこっちにはないでしょ」。 確かに、示された車道は濡れているのに光を一切反射せず、大穴があいているのかと錯覚するほど暗かった。同期は髪を一本抜いて、ラップのようにびっ、と広げ、投網の要領で車道に投げた。存在を許されたアスファルトは、パチンコ屋のネオンを映して慌ただしく輝き始めた。