発光

友達に、指輪切れかけてない? と指摘されてからずっと右人差し指が気になっている。今見ると言うほどでもない気がするんだけど、先週買ったばかりだという友達のと並べたときは結構な差に見えた。友達の方が断然、光の量も暖かい色味もきらめきも強かった。ちゃんとした値段で買ったのに保証期間過ぎてすぐ切れ始めるなんて納得いかない。それでずっと、まだ使える、と買い替えるか外すかしたほうがいい、の間でお手玉されている。

部屋を暗くして、改めて指輪を検分した。指輪は装飾のないプラチナ製のアームに大ぶりの石が一つついた、シンプルなデザインのものだった。その代わり、台座の裏を透かして爪を極限まで小さくし、石が最大限美しく見えるよう仕立ててあった。買った当初は部屋中を明るませていたから品質は確かだったと思うんだけど、今は手元を多少照らす程度だ。日々の手入れが不十分だったのかもしれない。ただ石が光を失ったことにより、白飛びしていたファセットがねっとりと、飴玉のような質感を得ていて、その具合だけは絶妙だった。どうにも美味しそうなので、前歯で台座を挟むようにして口に含んだ。噛みちぎれるかなと思ったけどさすがに無理だった。舌を多面体に押しつけるようにしてぐるりと舐めてみると、口内にかすかな多重奏が響き渡り、本当にこの中に生きものが閉じこめられているんだな、きっとこれは瀕死のうめき声なんだろうなと思って、粉々に噛み砕きたい衝動に駆られた。