ずっと眠れていないのだと祖母にこぼしたら、眠り袋と寝るといい、と猫を手渡された。眠り袋はいつでも眠りを余らせてそこらじゅうに撒き散らしている、どうせなら少しわけてもらえとのことだった。猫は膨らんだりへこんだりするばかりで、起きるそぶりも見せない。不思議がっていると、眠り袋なんだから当然だと言われた。確かにその通りだ。さっそく枕もとに置いて布団をかぶると、今までの不眠が嘘のように意識が途絶えた。

目を覚ましたとき、眠り袋は昨晩と同じ姿勢で眠っていたが、私が寝室を出る頃には起きて朝食の席までついてきた。祖母は驚いて、この子が朝から起きているなんてめずらしいと言った。眠り袋はひと声鳴いて何処かへ消えた。

不眠はすっかりよくなった。しかし眠り袋のほうは、だんだんと覚醒の時間を長くしていた。私が眠るときですら、目を開けたまま丸まっていることが多くなった。このままでは眠りをわけてもらえなくなってしまう。不安は的中し、猫はある日を境に一切眠らなくなった。私も再び眠れなくなった。

昨日と地続きの明け方に、祖母は私の寝室へ入ってきて、眠り袋を復活させると言った。ベッドから抜け出て台所へ向かうと、昼夜を分かたず走りまわるようになった猫が祖母に捕まり、注射器を当てられていた。猫はぐったりと仰向けにされ、柔毛に覆われた腹を糸切り鋏で裁たれた。帝王切開で取り出されたのは新しい眠り袋だった。眠り袋は小さな身体を膨らませてはへこませて、深く寝込んでいた。