『堅固な対象』(『青と緑』より)

「ガラスは請求書と手紙の束の上に鎮座し、素晴らしいペーパーウェイトになっただけでなく、書物のページからふと目が離れた折など、視線の止まり木として絶好のものになった。考えごとの途中で何度も何度も視線の対象になったものというのはそれが何であれ、思索の織物と深く関係を持ち、本来の形を失い、すこし違ったふうに、空想的な形に自らを作りなおし、まったく思いがけないときに意識の表面に浮かびでたりするものだ。」

この短編での「ガラス」は工芸品でなく、海岸で掘り出した、もとが壜だったのかタンブラーだったのか窓ガラスだったのかもわからない只のかたまりだ。そんなもの自体概念上の存在なのだけど、切なくなるほどに欲しい。用途も意味もない物体が好き。純粋だから。美しさという基準において、世俗的な意味なんて価値を損ねるものでしかない。時間をおいて意識の表面に浮かびでるものが感動的なのは、空想を通ることで意味が剥落するからだ。

一方で(というより、同じ嗜好の裏表で)、私が作りたいのはオブジェでなく、花瓶やチェス盤やボタンやコースターやバングルつまりは用途のあるものばかりだし、超絶技巧の器が好きだ。それは、本来実用性を優先するはずの道具に贅を凝らすとき、非現実的に豪奢な背景が立ちのぼるから。本質は作品でなくその世界観にある。現実世界に空想の兆しを差しこみたいし、差しこんでほしい。