謎施設レポ

田舎の住宅街にあるごく普通の民家の門をくぐると、怪しさ満点の商品説明や、謎の幾何学模様をラミネート加工した貼り紙が目についた。うわ〜、"本物"のアジトに来ちゃった...とワクワクしながら待合室へ入る。壁際のガラスケースにはガラス玉、お守り、カトラリー、塩、水、石けん、その他諸々の商品が陳列され、ラックには「除霊治療申込書」「遠隔治療申込書(ワクチン接種者用・未接種者用)」「内蔵新ピン取替申込書」などのファイルが並び、奥に寝かされている患者の頭や腹の上には金塊のようなものが載せられており、どこをどう切りとってもやばい空間だった。はしゃぐ母を見て複雑な気持ちになった。

父は施術を固辞したので、私と母だけカルテを書いた。人体図の悪いところに丸をつけるやつ。とりあえずたくさん書いとこうと思い、頭痛、生理痛、首と肩のこり、背中と腰と前腕の痛み、足の張り、眼精疲労と書きこんだ。

何をされるのかいまいちわかっていなかったが、ほぼ整体だった。まず普通の施術師が何人かいて、その人たちはガラス玉を使ってマッサージを行う。母の質問責めにより得た断片的な説明をまとめると、このガラス玉には、宇宙と繋がっている教祖(教祖ではあるが先生でもあり、普通に施術もする)が込めた55の情報が入っており、それを身体に当てると宇宙の力で身体の歪んだ情報が正常に戻り、悪いところが良くなるという。癌とかも治る。教祖は施術師たちがマッサージしている間、患者の身体の上で水を振りかけるように手を揺らしながら、ベッドの間を歩き回っている。たぶん手から何か出ているんだろう。母は若い施術師にガラス玉で施術されていたが、私はカルテにいろいろ書きすぎて重症だと思われたのか、教祖に直接マッサージされた。教祖、めちゃくちゃマッサージうまかった。普通マッサージって身体を触りながら凝りを見つけてほぐしていくって感じだと思うんだけど、教祖は触らずとも一発でツボを押してくる。的確にツボを押しながらも手をぴろぴろさせて何か出しているのがじわじわきた。あと教祖は基本的に話さないのに、私の痛え〜という顔を見て、蚊の鳴くような声で「がんばれ...」と言っていたのも面白かった。

施術が終わると別の部屋に通され、「天然の放射線であるラジウムを放ち、玉川温泉の40倍の治療効果を誇る日本唯一のカプセル装置」に入れられた。カプセルの蓋を閉める際、スタッフ随一の信者と思われるお兄さんにものすごくいい笑顔で「それでは、いってらっしゃ~い!」と言われてディズニーランドを感じた。カプセルは普通にサウナみたいだった。

待合室へ戻り会計の順番を待っている間、母はガラス玉(13万)買おうかなどうしようかな、だってこれがあれば先生の情報でぜんぶ良くなるんでしょ、とずっと迷っていた。ええ~......と言いつつこの違和感はなんだろうと考えていて、それは、母はなんだかんだ言いつつも本当にこの施設のことを信じている感じがしないということで、もしかして「やばいものにハマっちゃいそうな危うい私」を心配されたいというか構ってほしいのかなと思って、でもお母さんってそんなに困ってることあるの? そうは見えないから意外、これに頼らなくたってぜんぶ実力で解決できそうなのに...と水を向けてみた。まさかぁ、全然困ってないよ? 仕事は順調だし、こないだプロジェクトが表彰されたし。表彰されたんだ、すごい、どんなプロジェクトだったの? それからひとしきり仕事の話を聞いて、まあガラス玉はそれで元気になるなら買ったらいいと思うよと勧めた。結局ガラス玉は買わず、箸(添加物が中和され、食べ物も飲み物も味が変わっておいしくなり、ビールの泡はきめ細かくなる)や石けん(除霊とかできる)を買っていた。どれも教祖の情報が込められているらしい。

それから信者スタッフの話を聞いた。"これは学校教育では教えてくれないことなんだけど"、本当はキリストやブッダアッラー含むすべての神様は京都の籠神社から発生していて、なのにみんなそこを蔑ろにしているから神様は怒っていて、コロナも戦争も怒った神様が不要な人間を一掃するために仕組んだことで、その犠牲者になりたくないなら、神様に顔を覚えてもらうために籠神社へお参りしないといけない、とか。「なるほど、じゃあロシア人やウクライナ人はこの世から追放すべき罪深い民族なんですね!」と言ったら無視された。その通りですって言えよ。前の人が現金で94万の支払いをしていて会計を待たされていたので(この施設は高額商品ばかり置いてあるのに現金しか使えない)、他にもいろいろと話を聞いた。ずっと目が輝いていて怖かった。

母はさっそく教祖箸を使い、ほんとに味が変わる! と言っていたので、コップの水を3つ用意して、一つは教祖箸でかき混ぜ、もう一つは普通の箸でかき混ぜ、もう一つは何もせず、目を瞑って順番に飲ませてどれが教祖水か当ててもらう実験をした。普通に外していた。その後の旅中、母はことあるごとに教祖の手のぴろぴろを再現していじり倒していて、いや全然信じてねぇじゃんと思った。