感情のカラーボール

中央線新宿駅のホームで、全身原色に塗れた男を見かけた。今年は出かけていて見逃したが、また例の大会が行われていたらしい。

新春☆感情ドッジボール大会は、間引き政策の一環として始まった大規模イベントだ。ルールは簡単。参加者は各々の感情をカラーボールにしてぶつけあう。心が壊れたら負け、試合終了まで生き残れば勝ち。ドッジボールとは名ばかりの、ただのバトルロワイヤルだ。開催当初はまだ球技の体を成していたものの、ルール改変が重なり今の形になったという。

激しい感情をカラーボールに出来る参加者は強いが、相手から受けるダメージも大きく意外と生き残らない。運動神経のない参加者も不利になる。そもそも人に向かってカラーボールを投げられないような参加者は、ナメられて集中砲火を浴び即敗退するか、気配を消してひっそり生き残るかのどちらかだ(とはいえ参加者のほとんどは、試合が進むにつれ躊躇なく攻撃するようになる)。結局強いのは、攻撃されてもダメージを受けにくい防御型だと言われている。大会は賛否両論あれど毎年大盛況、今年も強く生きましょう! というお言葉で締めくくられ、すぐに忘れられる。

目的の電車に乗り込み、窓越しにホームを見ると、駅員が原色の彼を取り囲んでいた。両腕を担ぎ棒で固定された彼はキョンシーの姿勢をとらされ、お神輿のように運ばれていった。大会で生き残っても、時間差で心を壊す者は多くいる。敗者がどこへ連れて行かれるかは明らかにされていない。