キャプション

「幅約12m、高さ約5mの陶板は、陶磁器産業で栄えた幻の村から発掘されたものです。元は重さ1000tを超えていた巨塊が、調査のため板状に切断された後、本館に寄贈されました。表面の細工があまりに精緻であることから、人の手で描かれた巨大壁画と誤解されていましたが、この陶板は正真正銘、自然に形づくられたものです。以下写真がそれを証明しています。

X線によるCTスキャン後、成分ごとに色分けされた陶板の写真)

我々は便宜上この遺物を『陶板』と呼んでいますが、すべてが陶器でできているわけではありません。磁器、ガラス、貝殻、木材、石材、さまざまな成分が元の巨塊に含まれており、それが見事な室内画を構成しています。何故こんなにも多くの成分が一つの物体から検出されたのかについては諸説ありますが、最も有力なのは、巨塊が発見された場所が村のハケ(※1)であったという説です。焼き損じた陶磁器や吹き損じたグラス、使い所のない端材といった産業廃棄物を、村人は決められた穴に捨てていたのだと考えられています。

特筆すべきは、それぞれの廃棄物が、独自の意思を以てこの絵を描いているということです。例えばコバルトを含む磁土は魚しか描いていません。記録によれば、この磁器を作っていたS氏は大の釣り好きで、竿にかかった大物に引っ張られ、海に引きずりこまれて亡くなったとされています。また村唯一のガラス職人であった大酒飲みの男は、重度の肝硬変により死亡したとされており、陶板に含まれるガラスも彼の遺志を継ぐように酒瓶ばかり描いています。最も不可解なのは貝殻で、元の形のまま貝化石となればよいものを、何故かテーブルクロスやカーテンといった布類に特化しています。白く波打つドレープの美しさはご覧のとおりです。

信じがたいことではありますが、陶板は科学では説明できない、物質に秘められた意思を明らかにしています。この事実は、中世以後数百年もの間否定されていた『自然の戯れ説』(※2)の権力を取り戻す鍵となるかもしれません。」

(※1)昔のゴミ捨て場

(※2)化石は、大地が本来持つ神秘的な造形力によって生み出されているという考え方。現在支持されている『生物起源説』と対をなす。地質学的観点から、17世紀頃にはほぼ信じられなくなっていた。